報道発表



独立行政法人情報通信研究機構(以下NICT、理事長:長尾 真)と日本ビクター株式会社(以下JVC、社長:寺田雅彦)は共同で、ハイビジョンの4倍の解像度を持つ「800万画素超高精細画像技術」と「5本指分身ロボット」を統合したネットワークロボットビジョンの開発に成功し、視覚限界に迫る超高精細 800万画素ロボットビジョンを実現しました。これにより、遠隔操作するロボティクス空間のリアリティ・臨場感を飛躍的に高めることができ、ロボットの操作性・実用性を格段に向上することができました。


<背景>
NICTとJVCは、21世紀の基幹となる情報通信技術として、ICT(情報通信技術)とロボティクスを融合する「ネットワークロボットプロジェクト」を共に推進し、高機能ネットワークロボットの実現を目指してきました。

従来、"ロボットの眼"として期待される超高精細カメラは、大型(据え置き型)でロボットへの搭載は不可能でした。ロボットの視覚能力・画像認識能力およびそれに伴う性能・機能を飛躍的に向上させるには、"超高精細カメラの小型化"が重要な課題でした。


<概要>
ロボットの眼としての超高精細カメラの小型化にあたっては、JVCが800万画素カラーCMOS撮像素子を搭載した小型カメラヘッド(従来カメラとの重量比1/18、体積比1/19)の開発に成功し、このカメラをNICTが開発した「ネットワーク分身ロボット」(両腕・触覚付き5本指ハンド)と組み合わせることによって、人間の視覚限界に迫るロボットビジョンを世界で初めて実現しました。これにより、ロボット動作空間のリアリティ・臨場感が飛躍的に向上しました。

人間に迫る視力(超高解像度画像)を備えたこのロボットは、同時に広い視野(超広視野角)も備えています。例えば、数多くの乱雑に置かれた多種多様なペットボトル等から、それらに書かれた小さな文字を識別し、特定のものをつかむことを可能にしました。また、活字のみならず、クセのある手書き文字も容易に判読しながら作業を進めることもできます。ハイビジョンクラス(200万画素)の画像では、このレベルの解像度と広視野角を両立することは不可能でした。本ロボットビジョンは、人間の視覚能力(視力)に一段と近づきました。

本成果の実証は、けいはんな情報通信オープンラボ・ネットワークロボット分科会・技能伝達ワーキンググループ(主査:京都大学医学部附属病院講師 黒田知宏)によって行われました。

今後は、こうした超高精細ロボティクス技術の研究開発をさらに進め、ネットワークロボットを、人間が有する能力により近づけ、「ネットワーク分身」の実現を目指します。将来、本技術は、遠隔医療・介護などへの用途が有望視されます。


<問い合わせ先>
情報通信研究機構 総務部 広報室
奥山利幸、大野由樹子
Tel: 042−327−6923、Fax: 042−327−7587
広報室アドレス

<研究内容に関する問い合わせ先>
情報通信研究機構 けいはんな情報通信融合研究センター
荒川 佳樹
Tel: 0774-98-6809、Fax: 0774-98-6955
E-mail: kyogikai@khn.nict.go.jp

日本ビクター株式会社 広報室 疋田 誠
Tel:03-3289-2813 Fax:03-3289-0376
E-mail: hikita-makoto@jvc-victor.jp



補足資料


1.超高精細ロボットビジョン (800万画素超高精細動画像カメラ)

<従来技術>
NICTとJVCは共同で、以下のシステムをいずれも世界で初めて開発することに成功しました。
(2001年)
ハイビジョンの4倍の解像度である800万画素(3,840×2,048画素)を持つ超高精細プロジェクタ(図4参照)。表示素子には、超高密度D-ILAを採用しています。
(2002年)
800万画素(3,840×2,048画素)の超高精細カラー動画像カメラ(図1左参照)。 このカメラでは、それまでの主流であったCCDではなく、JVCが、超高精細動画像用 として世界に先駆けて開発に成功したCMOS撮像素子を採用しています。
しかし、このカメラシステムは、図1左に示すように、大型で据え置き型でした。この大きさでは、ロボットの眼として、ロボットに搭載することは不可能でした。

写真

図1 従来の800万画素超高精細CMOS動画像カメラ(左)と
今回開発した小型カメラシステム(右)の大きさ比較


<開発カメラシステム>
今回、この800万画素CMOS超高精細カラー動画像カメラを、以下のような改良によりロボットに搭載可能なレベルにまで小型化・軽量化しました(図1右、図2参照)。以前に開発した800万画素カメラ(図1左参照)と比べ、体積で約1/18、重さで約1/19に、小型化・軽量化することに成功しました(カメラヘッド部での比較)。

  1. RGB3板(CMOS撮像素子3枚)から単板化(CMOS撮像素子1枚)
  2. レンズ等の光学系の小型化
  3. カメラヘッドの小型化・軽量化
この小型・軽量800万画素超高精細カメラをロボットの眼として、ロボットの頭部に搭載しました(世界初)。人間の視覚限界に迫るロボットビジョンを持つネットワークロボットのプロトタイプとして完成しました。
従来カメラヘッド:幅279mm×高さ364mm×長さ540mm、重さ29kg
今回開発したカメラヘッド:幅130mm×高さ105mm×長さ220mm、重さ1.5kg


2.ネットワーク分身ロボット (両腕・触覚付き5本指ハンド)

NICTは、これまでに、人間の腕・手が持つ機能に限りなく近い、ヒューマノイドアームおよび触覚付き5本指ハンドを開発し、このヒューマノイドアーム(両腕)およびハンド(両手)で構成される「ネットワーク分身ロボット」のプロトタイプを開発しました(図2右参照)。このネットワーク分身ロボットは、ネットワークを介して、自分の分身(自分の手)のように操作・動作することができます。このネットワーク分身ロボットは、以下のような特徴を持ちます。

  1. 人間の視覚限界に迫る800万画素超高精細ロボットビジョン
  2. 触覚付き5本指ヒューマノイドハンド
  3. データグローブを用いた人にやさしい操作インターフェイス
写真

図2 超高精細ロボットビジョン(左)とネットワーク分身ロボット(右)


写真

図3 遠隔操作システム

800万画素超高精細ロボットビジョン画像を、800万画素超高精細プロジェクタ(200インチリアスクリーン)に表示し、データグローブを用いて、分身ロボットをネットワークを介して遠隔操作する。


写真

図4 分身実証実験風景

多くの乱雑に置かれた多種多様な日用品(ペットボトル等)から、それらに書かれた小さな文字(タイトル、説明文)、ノートに書かれたクセのある手書き文章を容易に判読しながら、遠隔地から5本指ハンドで特定のものをつかみ移動させている。ハイビジョンクラス(200万画素)の画像では、このレベルの解像度と広視野角を両立することはできず、このような作業をすることは難しかった。


3.参考資料

超高精細・広角映像の伝送実験に成功   (2000年6月6日)
−「ネットワーク・バーチャルスタジアム」システムを完成−
http://www2.nict.go.jp/pub/whatsnew/press/000606/000606.html

ハイビジョンの4倍の画像処理技術を世界に先がけて実現   (2001年6月5日)
− 超高精細バーチャルリアリティ通信に向けた基礎技術を完成 −
http://www2.nict.go.jp/pub/whatsnew/press/010605-2/010605-2.html

800万画素超高精細カメラ映像のライブ伝送実験に成功   (2003年4月15日)
〜800万画素CMOS動画像カメラを実用レベルで完成〜
http://www2.nict.go.jp/pub/whatsnew/press/030415-2/030415-2.html

次世代高品質TVカメラを用いた屋外収録実証実験を実施   (2003年12月5日)
〜次世代デジタルシネマ技術とともにフランスの映画祭に出展〜
http://www2.nict.go.jp/pub/whatsnew/press/031205/031205.html



<用語解説>

CCD
Charge Coupled Deviceの略。電荷転送により高S/Nの撮像信号が得られる。製造工程が複雑で消費電力が大きく、画素数の多い撮像素子には向いていない。

CMOS
Complementary Metal Oxide Semiconductor(相補性金属酸化膜半導体)の略で素子毎に撮像信号を取り出すことが出来る。従来S/Nが悪かったが、プロセス工程での精度向上と画素構成の改良等により、CCDと比較しても遜色のないレベルになってきた。特に製造工程数が少ないことと,消費電力が少ないことから超高精細の撮像素子に向いている。

D-ILA
Direct Image Light Amplifierの略。反射型液晶表示素子は一般的なTFT構造とは異なり、配線やトランジスタを画素の下に配置することにより、高い開口率と従来の透過型液晶表示素子では難しかった超高密度画素構造を実現した。表示デバイスの中で最も高精細な映像を表示可能な素子である。

データグローブ
手袋に、指の関節の曲がり角度を検出するセンサーを組み込んだ機器。5本の指すべての動きを検出することができる。